正直ばあさんは3人家族

町中の試食コーナーが消えて早2年と数か月。

仕事がなくなり深刻な方々も多いので、
私ごときの愚痴など、とるに足らないものではありますが、

とはいえ、

ケチな私としては、
ただで食べ放題とまではいかないにしても、

小さな私の胃袋小腹は満足させておりました。

合法的にゼニ払わないでよいと思えば、満足が数倍増えて、
めったに出ない街中へ出る楽しみの一つでありました。

その日も歯医者さんに行った帰りに、
ショッピングモールによりました。

ここへ寄る目的は、
以前は、お姉さんが惜しげもなく差し出す使い捨てコップにはいった
ただの割には、たくさん入った甘いコーヒーでした。

この私の楽しみを奪ったやつらをとことん私は憎みます。

その日も、前は、ここにお姉さんがたっていて
私にやさしくコーヒー差しだしてくれたんだよなあと、

じっとっと、その前に立ちすくんで指くわえて、
店先から中まで流し見、お姉さんの幻を想像しつつ、

つんつん、

歩いていたら、先に、何やらにぎやかな一角、
ケチな私は、タダのものには、目ざとい。

タダで何か配っていると直感し、目立たず、ほしそうなそぶりを見せず、
サラッと近づいていったら、
どうぞお持ちくださいという、
私から見れば、兄ちゃん、世間一般から見れば、おじさんが、
私に、たぶん、呼びかけた。

その時突然気づいたふりをして、
実は行きで通った時も気付いていたのだけれど、
もらうタイミングを外して素通りしてしまった。

帰りはもらうぞと頭の隅にインプットしていたのです。

「え、もらえるの?」
と、初めて気づいたように言った。
しらじらしいかも。

ハイどうぞ、
兄ちゃん、やっと見つけた獲物みたいに喜んだような気がした。
私は良いように何でも思うので、私の勘違いかもしれません。

で、なんだろうとしっかり確認したら、
特売品にならなさそうな高級?ヨーグルトだ。
兄ちゃんの説明によると、
店頭売りはしてなくて、個人宅への配達のみらしい。
まあ、タダでその場限りの刹那に酔いたい身としては、
どっちでもよいのだが、

で、飲むやつと固形タイプのワンセットの入った
今は懐かしいスーパービニール袋を差し出した。

袋だけで今では数円するわけで、全部無料ありがたや、心の中で、
ほんわかいい気持になっていたら、

多分、その日は、人通りも少なくあまり配り物がはけていなかったのだろうか?
ご家族にもお持ちくださいと、兄ちゃんの嬉しい申し出、

家族をつらつらとっさに思い浮かべたら、
ストーブのステファニーと機織機のごんちゃんとすぐに思い浮かんだ。

他にも、ETちゃんとか、兜ちゃんとか、チキンラーメンのひよこちゃんとか、
ーーーーーー

いやいや欲かいちゃいかん、大きなつづら欲しがる意地悪ばあさんになってしまう。

ここは、優しい正直者のばあちゃんで、
ステファニーとごんちゃんだけ申請しようと、
頭の中で2秒だ考えて、
私を入れて3人家族ですと、正直に言った。

兄ちゃん3袋、気前よく手渡してくれた。
この袋だけで最低6円もしくは9円になる。

その後何やら営業していたが、都合よくぼけ老人になって、

ルンルン3袋もヨーグルトセットもらって家路についた。

ただコーヒーは飲めなかったけど、ラッキーな一日でした。